少年法適用年齢の引き下げに賛成する意見書

                  2020年1月30日

 

法務大臣 森  まさこ 殿

法制審議会少年法・刑事法部会部会長 佐 伯 仁 志 殿

法制審議会少年法・刑事法部会 委員・幹事 各位

 

            少年犯罪被害当事者の会

                   代表 武  るり子

 

 

少年法適用年齢の引き下げに賛成する意見書

 

私たち少年犯罪被害当事者の会は、少年らの犯罪により、最愛の子どもや家族を突然、奪われた遺族の会です。個人や家族だけでは受け止めきれない悲しみや苦しみを分かち合おうと、1997年に発足し、現在35の遺族が参加し活動を行っています。

 

法制審議会におかれましては、現在、少年法の適用年齢を18歳に引き下げることの是非のほか、非行少年を含む犯罪者の処遇の一層の充実強化に向けた議論が現在までなされています。

 

私たちは、法制審議会で議論されている少年法の適用年齢の引き下げについて、遺族の立場から、引き下げに賛成するとともに、成人としての責任を負わせた上で、国が責任を持って適切に贖罪に向けた指導を尽くす制度の充実強化を求めます。

 

私たちは、会の発足直後から、少年法の改正を求めて闘ってきました。それは、戦後に制定された少年法がそのまま50年も変わらず、時代に合っていなかったために、加害者の名前や審判や裁判の日程など、被害者として当然知るべきことすらどこからも教えてもらえないことや、当事者であるにもかかわらず、少年審判に何の関与もできないなど、法の不備による理不尽さに苦しめられてきたからです。

 

そこで私たちは、1998年に、当時の下稲葉耕吉法務大臣に要望書を提出し、さらに、2000年にも、当時の保岡興治法務大臣に意見書を提出するなどし、知る権利が阻害されていることや事実認定のあり方、量刑の適正化、少年法の適用年齢などの問題について訴えてきました。

 

要望書や意見書を提出した後も、シンポジウムを開催するなどして、社会に対して少年法の改正の必要性を訴えてきました。これらの取組もあって、少年法は4度にわたって改正され、被害者の知る権利に基づく審判結果通知制度や、さまざまな被害者支援制度も創設されたほか、不定期刑の量刑の適正化に向けた法改正も行われました。このように、国が私たちの訴えを真摯に受け止めていただいたことについては、大変感謝をしています。

 

ところが、少年法の改正があった後にも、悲しいことですが、当会に加わる会員は増え続けています。しかも、法改正後に事件に遭った会員に生じている問題が、会を結成した22年前と本質的にほとんど変わっていないことに驚き、怒りを覚えています。

 

この原因の一つとして、私たちは、少年法の適用年齢に問題があると考えています。

 

当会会員の子どもや家族が被害を受けた事件をみると、多くの加害少年たちは、自らが少年法で守られ、刑が成人より軽くなることを知った上で罪を犯しているケースが目立ちます。

 

例えば、2008年に千葉県で、当時19歳の少年が「誰でもよかった」と見ず知らずの24歳の男性を軽トラックでひいて死なせた事件では、裁判で「人を殺して死刑になるなら事件を起こさなかったか」と聞かれた際に、その少年は「自分は少年だから死刑にならない」と述べたのです。息子を殺された遺族として裁判に参加した両親は、この発言に、この少年は、自分が少年法に守られることを知った上で、罪を犯したのだと確信したのです。

 

このように、少年法により刑が軽くなることを分かった上で、犯罪をする少年もいるのです。凶悪事件を起こした少年ですら少年法で許されると思うのですから、軽微な犯罪をした少年であれば、なおさらその気持ちは強いのではないかと思います。

 

また、当会会員の事件の加害少年をみると、いきなり重大な犯罪を起こすのではなく、以前から軽微な犯罪を繰り返している場合が多いのです。

 

千葉県の事件の加害少年は、殺人事件を起こす前に、家出し、無銭飲食で保護観察処分を受けていました。家出の理由は、父からの暴力まがいの厳しい指導から逃れようとしたことでした。家庭裁判所に送られましたが、家裁は少年を少年院には送らず、少年が最も恐れる父のもとに戻したのです。その後、少年は、再び父親から逃れたいという一心で、車でひき殺す事件を起こしました。家出も殺人も動機は同じです。少年法の枠組みで家裁は丁寧な審理をしたのかもしれませんが、その判断は、少年による凶悪犯罪の芽を摘み取ることはできなかったのです。

 

弁護士や家庭裁判所、少年院の関係者からは、少年審判の審理は丁寧に行われており、少年院での教育は優れていて、うまく機能しているのだから、わざわざ変える必要はないという意見が多数を占めています。

 

それならば千葉県で起きたこの事件は、例外だというのでしょうか。尊い命が守られなかったという重い事実が、うまく機能していないことを示しています。

 

また、岐阜県で13歳の女子生徒の命を奪った当時15歳の少年が、少年院で3年半もの教育を受けたにもかかわらず、出院後に再犯を繰り返して、ついに受刑に至っています。

少年法が、少年犯罪の抑止力になっていないのです。

 

また、人を死に至らしめる重大な犯罪を起こし、被害者やその遺族に多大な損害を与えておきながら、加害少年側からは、謝罪や被害弁償がほとんどなされていないのが現実です。

 

2013年に、富山県在住の18歳の男性が19歳の少年と17歳の少年2人らに車で連れ回され、挙句に集団暴行を受けて命を奪われた事件では、2人の少年は逆送され、刑事裁判では少年法の規定により、それぞれ懲役5年以上10年以下、懲役5年以上8年6月以下の不定期刑となりました。また、19歳の加害少年は保護観察中で、免停中だったにも関わらず親が車を貸していたことから、親に対する監督責任を求め、被害者の母親が民事裁判を起こしたものの、裁判所は母親の訴えを退け、19歳の少年の親の責任はないと認定したのです。

 

このように、18歳や19歳は、刑事では子どもとして扱われ、民事では大人として扱われます。被害者はそのダブルスタンダードにさらに苦しめられています。現状ですらそのような実態があるのに、今後、少年法の適用年齢はそのままに、改正民法が施行されて18歳や19歳が民事上正式に大人として扱われるのは、被害者にとって耐え難いほど理不尽なことです。

 

少年法適用年齢の引下げに対する反対意見には、刑法と民法は立法趣旨が異なるので、適用年齢に差があるのは当然であるといったものがありますが、この耐え難い理不尽さがあっても、少年法の適用年齢を維持するべきだと言えるのでしょうか。

 

私たちは、適用年齢を引き下げるだけで解決すると思っていません。法制審議会で適用年齢と並行して議論されている処遇の問題についても、少年の矯正教育や保護観察について改善を求めます。

 

少年院のほうが教育が優れているとの意見がありますが、少年院のやり方が優れているのであれば、少年院のやり方を刑務所に取り入れればよいのではないでしょうか。ただ、私たちは、少年院でも刑務所でも、十分な矯正教育がなされているとは思っていませんし、矯正教育を終えて出院・出所した後の保護観察でも同様です。

 

特に、自らが犯した罪にきちんと向き合わせているのか、被害者についてしっかりと考えさせているのかについて、疑問に思っています。

 

加害者の多くは、少年審判や刑事裁判などで、「一生、罪を償っていきます。被害者に謝罪します。賠償金を払っていきます」と言いますが、当会のほとんどの会員の事件の加害者は、被害弁償はおろか、謝罪もありません。民事裁判で勝訴しても、賠償金を払う加害者はごくわずかしかいません。刑務所や少年院で罪を償ってきたから、被害者には謝罪も被害弁償も必要ないとでも思っているかのようです。裁判所などの国の機関で加害少年が言ったことは絶対に守らせることが大事です。国が逃げ得を教えてはいけないと考えます。

 

そのためにも、加害者が受刑中・在院中の段階から、被害者の置かれた状況や心情などを聴き取り、それを矯正教育の贖罪指導に反映させて下さい。そして、矯正教育で贖罪指導の成果を出すためにも、謝罪や支払いを実行することを保護観察の特別遵守事項に加えて下さい。罪を犯した少年が、その後、社会で生きていくために果たすべき責任は何か、国は徹底的に指導し、その責任を果たさせていく制度を作ってほしいと願っています。

 

私たちが主張していることは、少年法の厳罰化ではなく適正化だと考えています。繰り返しになりますが、被害者は、かけがえのない大切な人を奪われたり傷付けられたりしただけで十分苦しいのに、現状では、加害者から謝罪も損害賠償もなく、さらにその現状を国が許していることに、何重にも苦しめられています。18歳、19歳の少年に、選挙権や民法上の権利を与えるのであれば、社会的責任を受ける義務も課して下さい。

 

これらの問題意識を踏まえて、当会では下記のとおり求めます。

 

私たちは、これ以上、子どもたちを被害者にも加害者にもしたくないのです。

 

 

1 少年法適用年齢を18歳に引き下げることについては、選挙権及び民事成年年齢において権利を担保したのであれば、成人としての責任を負い、義務を果たすべきであること、刑罰を受ける責任を自覚させることが、犯罪の抑止力となると考えることから、賛成します。

 

2 少年に対する保護処分及び刑罰のいずれにおいても、自らが犯した罪に向き合わせ、その後の適切な行動に結びつけるためにも、次のような犯罪被害者の視点に立った指導や処遇の一層の充実を求めます。

 

(1)少年院、少年刑務所での矯正教育に、早い段階からもっと被害者のことを取り入れてほしい。

 

(2)施設に入所した直後から、被害者の状況、思いなど聴き取り、それを加害者に伝えるなどして、加害者の指導に活かしてほしい。また、指導を受けた加害者がその指導をどのように活かしたか、また、伝えた際に加害者がどのように反応したのかなどについて、被害者に説明や情報提供をしてほしい。

 

 

(3)謝罪をする、損害賠償金を支払うなど、贖罪に関して裁判中に述べたこと、仮退院を決める際に述べたことを実行させてほしい。加害者が保護観察となった場合の特別遵守事項に、謝罪や賠償金支払いに関する事項を加えてほしい。